後ろ足をあげている 股関節脱臼で骨頭切除が勧められる場合
八百屋さんに並ぶ野菜も果物も、すっかり秋らしくなりました。部屋を出てすぐはTシャツでも心地よいですが、風が吹くともう1枚欲しくなります。
ここ最近は、股関節脱臼の子が続きました。うちは、整形外科の専門ではないので、股関節脱臼をみる機会は少ないのですが、この2週間で3件は多い方です。
そのうちの1件のお話です。
シニアの小型犬が、散歩中に突然悲鳴をあげて、そのまま足をつけなくなったということで来院されました。お母さんは、いたって冷静にことの次第をお話してくださいます。歩いていると、お友達のワンコが近づいてきて、遊ぼうとして向かって行ったときに、ギャンギャン鳴きながら足を上げ始めたということです。明らかな怪我のきっかけは見当たりません。
片足を上げて、とても歩けそうになかったので歩行をみることはできず、そのまま診察台で触診から始めました。概ね膝の問題かな?と思いながら、足先、足首、スネの骨(脛骨、腓骨)、膝と、ゆっくりと触っていきます。太ももまでみていくと、足を後ろにピンと伸ばしたときにヤメテ!という足を引く反応がありました。痛いんですよね。これは股関節に問題があるというサインです。
お母さんは、とても心配されているはずで話の様子から緊張が伝わります。それでも動揺はしていません。股関節や他の関節にどのような異常があるのかを調べます。レントゲンで確認しましょう。お母さんに伝えて、少しだけお時間をいただきました。レントゲン室で、足をゆっくりと伸ばすと、左右の足の長さが違います。レントゲンで確認する前に、股関節脱臼があることは確認できました。それだけか、他にも異常がないか。わかったことは、股関節だけの問題です。
このワンコの膝には膝蓋骨脱臼という別の問題がありますが、これは左右の膝にあるし長年あったものでしょうし今回の痛みとは関係ないと判断しました。
診断は、股関節脱臼。治療方法は、大腿骨頭切除です。
股関節脱臼に対して、いきなり骨を切ることに疑問の声があったことがありました。しかし今は、これが標準です。まだ若かったり、かなり活発だったり、大型犬だったり、骨を切ることに気持ち的に抵抗があるという場合には、他の方法も選択できます。それでも最終的には、大腿骨頭切除を考えることになるでしょう。
脱臼ですから、元に戻せば良いのではないか?外れた関節を元に戻したら良いだろうという考えも共感できます。これを非観血的整復と呼んでいますが、成功率は50%ほどです。麻酔や鎮静をして、外れた股関節を元に戻しますが、そこまでは問題なくできます。ちょっとしたコツが必要なくらいです。問題はその後で、統計的には、半数以上の犬が再度脱臼します。
股関節は、骨盤の骨と太ももの骨でできています。骨盤側には、窪みがあり、太ももの骨には丸いボールがついていて、このボールが窪みにはまっているわけです。窪みが寛骨臼で、ボールが大腿骨頭ですが、これらは円靭帯という丈夫な組織で繋がっています。さらには、大腿骨頭と寛骨臼は離れないように関節包で覆われています。股関節脱臼が起こるということは、円靭帯が切れ、関節包が破れているということです。
形だけ戻しても再び脱臼しやすいので、整復したあとは足を使わせないようにしたり、包帯で固定したりします。そうして、関節包や周りの組織が線維化といって固くなるのを待つわけですが、包帯をつけている2週間程度は、3本足で生活することになり、それでも再脱臼率は50-60%です。
そのような理由で、股関節脱臼が起こったら、多くの場合に初めから大腿骨頭切除が選択されます。とりあえず元に戻すというのは、成功率が低く麻酔や鎮静が必要で費用もかかりますから、スキップされることがある処置方法です。そうは言っても、脱臼してすぐであれば、一度は試してみましょうと提案することもあります。
一通りの説明をしてから、ワンコには痛み止めを注射し一度帰宅していただきました。
当院には初診で、かかりつけの動物病院があるようですから、セカンドオピニオンなど相談される機会をご提供するのが目的です。翌日は手術ができるということ、他で手術をするなどのためにキャンセルはいつでもできること、緊急性はないことをお話しました。
夜間の診察で、その日最後の外来です。お母さんは、スマホで調べ物をしたりメモをしたりされていましたので、手術方法についての詳細や画像をお示しし手術名も文書にしてお渡ししました。
翌日、キャンセルか手術の希望か。どちらの可能性もありましたが、予約されたとおりのお時間に来院され手術を希望されました。当日の流れや退院の目安などを説明し、既往歴や投薬中のお薬のお話も伺って麻酔前の検査を行なってから手術開始です。手術時間は、犬の大きさによりますが今回のワンコですと、おおよそ40分ほどかかりました。
下の画像はイメージです。
数日間は入院管理をして帰ります。2週間から4週間もすると普通に歩けるようになるはずです。この手術では、安静がほぼ必要ありません。リハビリがなくても歩けるようになります。
夕方にお電話で様子を報告するとお母さんも安心された感じでした。
自由に動けるまでもうちょっとの辛抱だよ。もう痛みはないからね。秋晴れのうちに走り回れるようになりますよ。