日本橋動物病院だより

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骨折は夜に起こる – 小型犬の橈尺骨骨折 –

夜中に骨折してしまった場合、まずは夜間診療を行っている病院に向かいます。

診察のあと、まずはレントゲン検査です。骨折が確認されると、仮の固定をしてもらって、痛み止めが出されます。その場ではそれだけです。とりあえずは応急処置で終わります。

手術や具体的な治療を相談するのは、翌日かそれ以降です。手術の日までは特別なことをせずに、いつもどおりに過ごすことになります。手術日は、骨折から概ね1週間くらい後が多いのかも知れません。

仮固定をつけたまま手術日まで自宅や職場でいつもの生活を送るのは、ヒトの場合です。動物の場合は、応急処置の翌日に行った動物病院で、手術の日まで入院することも多いでしょう。手術日は、手術から1週間以内ですが、早ければ、翌日や翌々日に行われます。

骨がしっかりとくっつくのは、手術から3か月目くらいです。その間待たずして、犬は、手術で固定さえ終わってしまえば、飛び回って、周りの人を不安にさせます。



僕も、数年前に手首を骨折し、夜間の病院に行きました。年が明けてまもない1月の夜中に、ジムでトレーニングをするときのことです。ジムに21時に予約をしていました。ジムの決まりで、予約時間ちょうどにしか中に入れてもらえません。3分でも1分でも、21時前に着いたら、外で待たなければならない。そんなルールです。寒い時期の夜に外で待ちたくなかったので、ギリギリに着くように向かっているとルームシューズを忘れたことに気づきました。自宅からジムまでは自転車で5分程度です。予約時間ちょうどに着く予定でしたが、どうにかなると思って引き返しているときに、事故が起こりました。

自転車で、車道と歩道の段差に対し鋭角に乗り越えようとして、猛スピードのまま転倒したというのが骨折の原因です。

後で手首を骨折したことがわかったのですが、そのときは体全体を強打したので、どこが痛いかもよくわからず、歩道に腹ばいにうずくまって動けなくなりました。横倒しになった自転車の横で、しばらくはそのまま歩道に伏せていると、ちょうどカップルがそばを通り、優しいことに自販機で水を買って手渡してくださいました。できることなら、もう一度改めてお礼したい気持ちです。偶然にも、これを読んでくださっていれば、ぜひ教えてください。

とりあえず、自転車を押して自宅まで帰り、左手首がおかしな向きになっているなと思いながら、骨折か脱臼かわからないまま、夜中に急患を受け付けてくれるところに行くことになりました。

運よく整形外科のドクターが夜勤をしている大学病院で、手首を見るなり骨折ですねとボソリ。左手とはいえ当分は不自由だな、とがっかりしたものです。レントゲン検査を受け、改めて骨折を確認してもらいました。

手首あたりの骨折なら、犬では、橈骨と尺骨の2本の骨が同時に折れるのが一般的ですが、ヒトは橈骨だけが折れることが多いようです。僕の場合もそうです。

そのドクターは、鎮静も麻酔もしないまま、折れてズレてしまっている骨の並びをまっすぐに戻そうとしました。ぐいぐいと、それはすごい力で。

僕は痛みや苦痛には、かなり耐えられる方だと思っています。でも、その場ではベッドの上で足をバタバタさせてしまいました。歯を食いしばり声も出ませんでしたが、少しばかり汗は出ました。

ドクターは骨が真っ直ぐに並んだと思ったのか、もう一度レントゲン検査です。診察室から階の異なるレントゲン室まで、夜間で照明の少ない廊下を進みます。あのぐいぐいで真っ直ぐに戻ったかどうかを自分で確認する余裕はありませんでしたが、検査の後で、とりあえず手首に仮の固定器具をつけてもらって一旦は帰宅しました。

翌日に再度同じ病院に行き、手術を勧められ、その病院で受けるか他に行きたい病院はあるかを聞かれ、ここでお願いしますと伝えて手術日が決まりました。手術は水曜日ということで、前日の午後から、翌日の午前中を目安に2泊3日の入院です。仕事を休むことがなかなかできない中で、うちの動物病院の休診日と手術日が重なったことを喜んでしまいました。

さて、前置きとしてはかなり長かったのですが、僕のことを書きたかったわけではなく、今回来られた小型犬の話に戻します。

夜間病院で応急処置を済まされ、腕に包帯をぐるぐる巻きにされたまだ幼い小型犬が来院しました。包帯はロバートジョーンズと言われる巻き方がされていて、わんこはこれのおかげで痛がることもなく、ぎこちないながらもトコトコと歩くことができます。

このような、まだ幼いわんこが骨折をすることはよくあることです。ほとんどの原因は落下によるもので、ソファーやベッドから飛び降りたか、飼い主さんの腕から落ちてしまったか。どのような原因だとしても、飼い主さんの辛いお気持ちはよくわかります。

そのまま入院して、2日後に手術をすることになりました。

レントゲン検査で、いろいろな角度から骨の長さを計り、手術で使用するインプラントを決めます。とにかく小さな子なので、インプラントも最小のものを使うことにしました。金属のプレートをスクリューと呼ばれるネジで留めます。ちなみに、そのスクリューを入れるために骨に開ける穴が直径1.1mmでそこに入れるネジが直径1.5mmです。

このような手術では、1mmのズレでも誤差としては大きすぎます。正確に、とにかく慎重に息を止めながら手術を進めます。本当です。

子犬を迎え、成長を楽しみ、家族として生活に馴染んできたときに起こる事故。ときには、これから散歩を楽しもうね、そんな時期かも知れません。ご家族の落胆は、悔やむに悔やみきれないものでしょう。それでも、いわゆる怪我です。必ず治ります。

毛を刈って、しっかりと消毒した皮膚を切開すると目的の骨に到達する前に、筋肉が見えてきます。ここで大切な筋肉は3つです。それらを傷つけないように丁寧に避けて、骨にアプローチします。

骨が折れて2つに分かれている場合、片方が、ほとんどの場合、手首に近い方が短いものです。それを元の形に揃えてから固定します。どちらにも最低2本ずつのスクリューを入れるのですが、手首側の骨が極端に小さいと、スクリューを入れるのに手こずります。

今回は、手首側にもどうにか2本入れることができそうでした。骨折の手術で特に大切なことは、折れてしまっている骨をきれいに元のとおりに並べることです。実はこれが難しい。筋肉に引っ張られたり、骨を持っている手の力を少しでも緩めたりするとズレます。大きくはズレませんが、できるだけピッタリと仕上げたいものです。

骨に1.1mmの穴を開け、その深さを計測し、スクリューの長さを決定します。1.1mmの穴に入れるスクリューの直径は1.5mm、長さは6mmから8mmほどを使うことが多いですね。この、穴をあける、深さを測る、スクリューを入れるという工程を繰り返します。必要なスクリューの分だけ行いますので今回は5回でした。

手術のあとにレントゲンで仕上がりを確認して終了です。数日の間入院してから退院しました。

飼い主さんは、退院の日を迎えてもなお不安そうな表情は変わらず。ここには、わんこの心配と骨折の原因となった自身の行動への後悔もあるのかも知れません。

退院の前に、どれくらい歩けるか、あるいは、どれくらいしか歩けないのかを見ていただこうと、ちょっとだけわんこを診察室で歩かせてみました。それなりに、痛がることもなくひょこひょこと歩くことができます。

それを見て、飼い主さんは少しだけ表情が緩み笑顔未満の目をされていました。その後も定期的なフォローアップの度に、笑顔で様子を教えてくださいます。もう、ちゃんと歩けるようです。

なぜか、骨折は夜に起こることが多い。そして、若い子の骨折は、跡形もなく驚くほど早く治って行きます。