日本橋動物病院だより

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両肩が外れた – 肩関節脱臼、関節固定という選択 –

2026年9月。最近は雨が多いですね。一雨ごとに、というよりも、一気に寒くなってきました。

今日、電話でお問い合わせがあったのは、2か月ほど前に手術をした小型犬の飼い主さんからです。数年前まで当院の近くにお住まいがありましたが、お引越しされてから久しぶりに手術の相談で来院されました。

これはその2か月ほど前のお話です。

先生、久しぶりね。そう言って、困っている現状をお話してくださいました。何か良い方法はないかって思って。飼い主さんのお話を伺いました。

このわんこは、左右の前足をケンケンさせます。ときに左、ときに右で、どちらの前足にも問題がありそうでした。

とても元気な子です。動きたい、走りたい。けれども前足を思うように動かせない。どうにかならないかと思うのは当然のことでしょう。できる治療があれば積極的に進めたいという希望です。

レントゲン検査をすると、両方の肩が脱臼していることがわかりました。外れてしまった両肩の様子が、レントゲンではっきりと写っています。そして、常に脱臼しているわけではなく、元に戻ったり脱臼したりを繰り返しているようです。

やっぱり脱臼しているのね。飼い主さんの言葉には、ちょっと疑問が残りました。レントゲンの画像をみると脱臼していることは明らかですが、そのことはわかっていなかったのかな?もしかしたら、近くの動物病院で検査をしたときには、脱臼はしていなかったのかな?でも、歩き方がおかしくて受診されたようなので、そのときには脱臼があったはずだけど。そんな思いがありました。

近くの先生は治療に対して消極的ということで、セカンドオピニオンを希望されての来院でした。飼い主さんのお話とレントゲン検査から、この子の肩関節脱臼は、始まってからかなりの時間が経っていると思われます。その場で元に戻しても、すぐに外れてしまうために、脱臼を元に戻すだけでは問題は解決しません。手術が必要です。

肩関節脱臼の治療には、いくつかの手術方法がありますが肩の関節を一定の角度で固定する、関節固定を提案しました。肩関節を構成する肩甲骨と上腕骨を決まった角度で完全に固定するものです。固定してしまうと、関節は動かせなくなります。

このように関節を固定すると、動きが不自由になるのではないかという心配があります。しかし、犬の肩関節を固定しても問題ありません。これまでのように生活をすることができます。歩くことはもちろん、走ったりジャンプしたり、特別な制限も注意点もありません。

一通りのご説明を済ませると、飼い主さんは、できるだけ早く手術をしたいとの希望です。

これまでずっと気になっていたということですから、こちらもできるだけ早めに日程を設定しました。

この手術で使用するのは、骨折の手術などで使うプレート、同じくスクリューと呼ばれるいわゆるネジ、関節表面の軟骨を削るラウンドバー、骨に穴を開けるドリル、そしてドリルを動かすパワーツールなどなど。

整形外科手術では、使う器具がとにかく多い。この中で、それぞれの動物に合わせて用意するのは、プレートとスクリューです。あとは、動物の大きさにかかわらず共通しています。このようなものは、ある程度ストックしているのですが、たまに規格外のものが必要になることがあります。これらはすぐに揃いそうでした。

手術をしても、すぐに腕を動かせるわけではありません。体を支えられるようになるまでには、1-2週間ほどかかります。両方の腕を一度に手術すると、日常の生活に支障が出るでしょう。そのようなわけで、今回は特にひどい左側だけを手術し、右側は左側がしっかりと治ってからということになりました。

関節固定は、ちょっと難しい手術に分類されています。整形外科の基本操作を繰り返すだけですが、解剖学的に重要な血管や神経を意識して、そして関わる筋肉が多いので、気を遣う手術です。

イメージとしては、鶏肉の手羽元でチューリップを作るときに似ているところがあります。ただ、血管や神経の配置を理解して筋肉を一つずつ丁寧に分けながら進めて、そのあとで元のとおりに戻すところは、お料理とは違うところでしょうか。

このときに分ける筋肉は、肩甲横突筋、棘上筋、棘下筋、三角筋、小円筋、浅胸筋、上腕二頭筋、上腕二頭筋腱などで、注意する神経は、肩甲上神経です。

全身麻酔をかけて皮膚を切開し、上の筋肉を肩関節や肩甲骨、上腕骨から剥がします。この工程は、まるでチューリップを作る時のようです。この表現は不謹慎かも知れませんが、本当にこんなに剥がしても良いものかと思ってしまいます。

肩甲骨と上腕骨の連結部分が肩関節です。肩関節は例えるなら、軟骨の受け皿に軟骨のボールが乗っているようにできていて、潤滑油のような役割の関節液があることで、ツルツルと滑らかに動くようになっています。

この関節を固定して動かないようにするので、今後は軟骨も潤滑油も必要ありません。軟骨を削り取って関節をプレートで固定すると、肩甲骨と上腕骨は癒合して一体化します。こうなることを狙った手術です。

皮膚を切開し筋肉を避けて骨を露出して、軟骨を削り取ったら肩関節にピンを入れてひとまず固定します。肩甲骨と上腕骨を串刺しのようにすると肩関節が動かなくなって、これだけでも関節固定になっています。しかし、ピンだけですと強度が弱いので、骨プレートでしっかりと補強しなければなりません。

骨プレートは、もともと真っ直ぐな12cmほどの板ですが、この形のまま使うことはできないので肩甲骨と上腕骨を固定した角度に曲げて用意します。曲げの作業はちょっと難しい。ただ曲げるだけではなく、曲げてねじって骨の形に揃えてから使います。

ここまできたら、あとは骨に穴を開けて穴の深さを測定します。その深さにあったスクリューを次々に入れながら、骨とプレートを固定すれば9割は終わったようなものです。筋肉を丁寧に元に戻して縫い合わせて皮膚を閉じます。

関節が動かないようにする手術です。それなりに術後の負担もあります。それでも数日だけ入院管理をして帰る頃には、手術をした方の腕を使って歩けるようになっていました。

それから2か月後。予定していた反対側の腕の手術のご希望です。前に手術をした方は、走ることができるほどに良くなりました。不自由はなさそうです。

今でも、手術が終わっていない方の腕はときどき上げて歩きます。もうひと頑張り。すぐに両腕を使って走り回れるようになりますよ。