日本橋動物病院だより

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お友達との待ち合わせ – 犬の胃拡張症候群 –

午後から、数日は雨の予報。とうとう関東にも梅雨がやってきました。おおよそ1か月間、今年は雨の少ない梅雨だといいのですが。農作物が不作になってもいけないし、水不足も困るし、梅雨明けまでは辛抱ですね。

胃の中に空気が充満し、お腹が大きく膨らんで苦しくなる病気があります。胃拡張症候群と呼ばれる病気です。そんな、シニアのわんこが来院しました。これまでも何度も胃拡張を経験したとのことで、その都度、どうにか回復をすることができたということです。遠くから引っ越して来られた高齢のわんこは、頻繁に胃拡張を起こします。お母さんは、ずっとつきっきりは難しいところですが、急に起こる症状に気が抜けないといった様子です。

レントゲン検査でも大きく膨らんだ胃が、お腹のかなりの領域を占めています。まずは、胃の中の空気を抜くことから始めました。

よく行われる緊急的な処置は、胃に直接注射用の針をさして、空気を抜く方法です。しかし、これではうまく行く場合と、なかなか空気が抜けないことがあります。そこで、今回は、初めからカテーテルという細いチューブを口から胃に送りました。わんこもかなり興奮しているので、軽い鎮静をしての処置開始です。チューブを通して、空気を抜くと、張っていた胃がどんどんしぼんできました。

胃の緊張も解けて、わんこも楽になったようで、すやすやと呼吸も楽そうに見えます。これがこのわんことの初めての出会いでした。

ご家族にはいの動きを手伝う薬をお渡しし、週に1回程度の診察をご提案しました。それから毎週、お母さんが連れて来られます。お母さんは、わんこの胃の具合が悪いとき、不安そうにされていることもありますが、優しい笑顔がとても印象的です。そして、1週間のできごとを教えていただき治療を始めます。食事量が十分ではないこともあり、基本的には、毎週1回だけ胃腸にはたらくように点滴をしています。

このわんこは、後に遠くへ引っ越して行かれることになるのですが、そのときまで、何度か胃膨張にはなりながらも、毎回上手に切り抜けてくれました。その他大事になるような病気はありません。

深夜の急な胃拡張では、夜間病院に行かれることがあったり、お母さんがお泊まりでおでかけされるときには、娘さんがお世話をされたりと、ご家族みんなで細やかなケアを続けて来られました。

毎週のように診察をしていると、来院される曜日や時間がほぼ固定されてきます。ちょうどその頃、同じように毎週診察をする猫さんがありました。いつの間にか、お二人はお友達になられたようです。

猫さんの飼い主さんは、日本橋でランチを中心としたお店をされています。私も看護師達も、ご馳走になったことがある絶品ランチが有名なお店です。猫さんのお母さんは、かなりの早朝から、人気メニューの仕込みをされ、人気店の変わらぬ味をずっと守っていらっしゃいます。

猫さんの飼い主さんは、かなり早朝から開店準備を続けて来られ、長年のお疲れが溜まってからか、一時体調を崩されることがありました。そのようなときには、ご家族が飼い主さんも猫さんも一緒に支えて来られました。

お店を休むことをせず、とにかくお客様のためにとおっしゃっていましたが、ここからさらに続けて行かれるには、静養も大事なことです。無理をされないように、体調を考えながらの営業をされているようでした。

そのような中、わんこのお母さんとお父さんが、このお店に行かれたようで、猫さんの飼い主さんはとても喜ばれていました。お二人で来てくださったの! と笑顔です。

決まった曜日の決まった時間に、うちの動物病院で待ち合わせをされているようでした。わんこの点滴の間、お二人は受付の長椅子で楽しそうにお話をされています。そして、わんこと交代して猫さんをお呼びするという流れです。

お二人の待ち合わせは、しばらく続きました。

わんこも猫さんも定期的な治療が必要な病気です。そのために通院されています。猫さんの方は、慢性的な病気でしたが、容態が次第に厳しくなっていきました。そろそろ難しいかも知れない。そんなことをお伝えする時が来ました。ここまで懸命に頑張ってこられた飼い主さん。覚悟はできている。気丈にもそのように返されましたが、ご長寿でとても思い入れのある猫さん、どれだけ寂しいか本当によくわかります。

今は亡きご主人との思い出がいっぱいの猫さんです。早朝の仕込みも、そのご主人あってできていたというお話をしてくださったことがあります。猫さんとの出会いも、ご主人との思い出が必ず重なるできごとだったようです。

それからしばらくして、猫さんはお別れの日を迎えました。そこまでも本当に長い道のりでした。お店のこと、ご自身のこと、そして猫さんのこと。本当に良くされました。

その後も、わんこの定期的な治療は続きます。

もう待ち合わせはなくなった。そう思っていると、受付から猫さんの飼い主さんの声が聞こえてきます。受付をのぞいてみると、わんこの飼い主さんと猫さんの飼い主さんは、これまでと変わらず、談笑されていました。ご挨拶をすると、猫さんの飼い主さんは、笑顔で手を振って応えてくださいました。

もう猫さんはいません。それでも、動物病院での待ち合わせは続いています。しばらくして、わんこのご家族が遠方へ引っ越されることになりました。そう長くはないお付き合いでしたが、思い出はいっぱいです。

わんこもご長寿ですから、どうか穏やかに過ごせますようにと心から願っています。

猫さんの飼い主さんのお店はうちの動物病院から近いところにあります。また、絶品ランチを求めて行ってみるつもりです。どうされているかな、きっとお元気にされているに違いありません。