日本橋動物病院だより

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しばらくは歩けないかと思っていました – 犬の橈尺骨骨折の手術と費用のお話 –

久しぶりに1日中冷たい雨が降っていましたが、明日の予報は晴れ。次第に暖かくなって行きそうです。今年の桜は早いと言われていますから、緊急事態宣言が解除される頃には、あちらこちらで咲き始めますね。

今回来院されたのは、骨折をした体重が1.5kgほどの超小型犬です。お母さんがお出かけから帰宅されると、前足をあげて、キャンキャンと痛そうにしていたとのことでした。お母さんは、とてもやんちゃな子について、いつか怪我しそうな気がするんですよねって以前からお話をされていました。怪我がとうとう現実になってしまったことを残念でもあり、仕方がないという思いもありで、苦笑いをされていました。

この子は、最近になって、ソファーからピョーンと飛び降りることを覚えたようで、その飛距離も段々と伸びていっていたとのことでした。なかなかクレートの中では過ごしてくれず、お母さんが留守のときも、いつもお部屋で自由に過ごしていたとのことですが、今回はとうとう骨折をするくらいに飛んだのが怪我の原因だろうと予想されました。

痛そうな前足をそっと支えながら、レントゲン検査をすると、手首の少しだけ上側が骨折していました。橈骨と尺骨の骨折で、橈尺骨の骨折と呼ばれるものです。

骨折の治療で必要なことは、まずしっかりとした固定です。そして、できるだけ早くに運動を再開することです。

しっかりとした固定ができますと、運動を早くに再開でき、そうすることで治る速さ、骨がくっつくまでの日数が短縮されます。そして、この子のように、活発で、運動量の多い犬の場合には、固定強度が弱いと治らないこともあります。骨折の癒合不全と呼ばれるものです。

固定方法は、腕にギプスをつける方法、骨の中にピンを入れる方法、創外固定、そして骨にプレートあてる方法があります。この子の場合には、骨プレートをあてる方法が最も良いと判断しました。ギプスでは、運動制限をしなければならない日数が長くなりそうですし、ピンだけでは強固な固定が困難です。創外固定は、もともと骨プレートを当てることが難しい場合に選択されることが多く、手術の後もこまめな管理が必要です。

お母さんに、骨プレートを使って治療をしましょうと提案をしました。

骨プレートを使って強固に固定することで、運動の再開が早期にできますし、運動制限も最小限にすることができます。

しかしながら、お母さんの希望は骨プレートではありません。ブリーダーさんが、ピンを入れるのが良いって言っています。とのことです。

ブリーダーさんが、どこまでご存知かは確かではありませんが、体重1.5kgの超小型犬の骨折は、手術をしても骨がしっかりと治らないこともあります。それでも、僕は骨プレート以外の方法がうまく行くとは思えませんでした。

お母さんと色々とお話をして、リスクもありますが、それでも骨プレートを使った手術が最も成功率が高いこと、運動の再開が早くにできることなどをお伝えしました。

最後には、お任せいただけることになり、骨プレートを使った手術をすることになりました。

この子の骨の幅は4mmほどしかなく、一般的な骨プレートでは最も小さなものでも幅が5mmです。ちょっと特殊な骨プレートを使うことにしました。ここで注意しなければならないのは、必要な大きさの骨プレートを使わないと、小さすぎても問題が起こります。

お母さんといろいろとお話をして骨プレートを選択することになった訳ですのでプレッシャーもあります。とにかくしっかりと成功させるために慎重に計画を立てました。

一般的に、骨プレートは、スクリューというネジで骨に留めます。そのネジの直径は、骨の幅の1/3を超えないようにしています。この子の骨の幅が3から4mmですので、ネジは最大でも1mmです。ネジの直径が1mmのスクリューのセットにつて、整形外科の専門病院の先生に話を聞かせていただきましたが、そこでも1mmのセットは使ったことがないとのことでした。

1mmのスクリューが本来の限界ではありますが、今回は、どうにか使える1.2mmのスクリューを使うことにしました。ちょっと、特別な規格です。一般的なスクリューは、1.5mmが最小で、次が2mmです。1mmも特別ですが、1.2mmはなかなか使われないサイズです。

1.2mmのロッキングスクリューという、ある程度一般的になった技術を使って手術をしました。

骨プレートは、適切な大きさを選択することが大切で、小さすぎると手術は少し容易になりますが、強度が足りずに大きな問題が起こるとされています。ついつい1mmのスクリューを使いたくなりますが、以前に、1mmのスクリューで手術をされた小型犬が、他の動物病院から運ばれてきて、強度不足で再手術をしたことがあります。

今回手術をした超小型犬は、順調に前足を使うようになり、短い入院だけで退院しました。

お母さんには、できるだけ運動制限をしてくださいね、とお願いをしましたが、抜糸に来院された時には、ソファーから降りたり結構動いてしまっていますとのことでした。結局、ほとんど運動制限をされることなく、綺麗に治ってしまいました。

退院の日のお話です。前足を痛そうにして入院した訳ですが、数日後の退院の時には、普通に歩けていました。まあ、よくあることです。しばらくは歩けないかと思っていました。そうお母さんが笑顔でお話され、どうにか骨プレートでの手術を承諾したいただき、よかったと安堵しました。

骨折の手術は、その方法や使う器具によって費用がかなり異なります。

ギプスだけですと、最も安価ですが、運動制限がしっかりとできないと、元のとおりには治らないこともあります。ややリスクを取って価格を優先するか、治らないというリスクをできるだけ避けて早期に運動の再開を目指すかという違いもあります。

さらには、骨プレートの手術を選択しても、費用に違いがあることがあります。従来のプレートを使う場合、ロッキングスクリューを使う場合、そして骨がしっかりとくっついた後に、プレートを取り除く手術をする場合、などです。

これらの多くは、ご家族に選んでいただくのはとても難しいものです。それぞれのメリットを詳細に説明するのが難しいからです。大まかな選択肢をお伝えしながら、担当獣医師が最も成績の良い方法をご提案することになるでしょう。

結局、この超小型犬は、骨折をしてから手術をするまでは運動ができませんでしたが、手術後には走り回っていました。どんな子でも、このようにうまく行くとは限りませんが、自分で大ジャンプをして骨折をしてしまった子ですので、すぐに走り回れるような良い治療ができたのではないかと思っています。

お母さんの思いに応えられたような気がしています。