日本橋動物病院だより

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犬の糖尿病 – それぞれの向き合い方 –

風が春の温度になってきました。

雨が降っても、冷たい感じがしなくなりましたね。

それでも、まだ気温は下がる日もあると思いますが、春がそこまできていることがわかるようになってきて季節が変わるのを楽しみにしているところです。

今回は、糖尿病のお話です。2つのエピソードがありますが、今回はまず1回目です。

その前に、少しご紹介いたします。

以前にご紹介している糖尿病のお話はこちらをご覧ください。→日本橋動物病院だより

病気についての細かな紹介はこちら。→かいぼっちブログ

糖尿病の血糖値(組織液中の糖)測定するデバイス→YouTube

犬や猫の糖尿病の治療をすることが多くなりました。ご家庭によって、糖尿病の動物との向き合い方には違いがあること実感しています。

最初にご紹介するワンコさんは、お母さんと暮らしています。ちょっと離れたところと、うちの動物病院の近くに2件のお家をお持ちで、その2箇所を行き来されています。小型犬ですが、とても大きく育っています。ある日、この子が糖尿病だということがわかりました。

お母さんは、その結果をお伝えしても、落ち着いていくつかの質問をされました。インスリン注射をご自宅でやっていただくようにお話をしたのですが、「それはできない」というお返事でした。注射をしなかったら、どれくらい生きますか?

僕も、簡単に答えることができない質問ですが、おおよそのところとして、3か月ほどかも知れませんとお話しました。

ヒトに糖尿病が多いことは、多くの方がご存知かも知れません。日本人の場合、おおよそ10人に1人以上が糖尿病です。そして、糖尿病患者さんのほとんど(90%)が2型糖尿病です。そして、2型糖尿病の治療の中心は、運動と食事です。

しかし、犬の糖尿病は、ヒトと同じではありませんが、ヒトに置き換えると1型糖尿病となり、周りに多くいらっしゃる2型糖尿病糖尿病患者さんとは違い、治療の中心は運動や食事ではなく、初めからインスリンを補う必要があります。そして、犬の場合、インスリンを補うとなると、注射をすることになります。

ここに色々な問題が起こります。

犬が糖尿病と診断された場合、初めからインスリンの注射を勧められると、もっと他の解決策はないのか?食事を変えればどうにかなるのではないか?運動をさせたら良いのではないか?などと、ヒトの2型糖尿病の取扱をそのまま犬に当てはめてしまうことがあります。

残念ながら、ほとんどの糖尿病の犬には、運動と食事による治療は効果がありません。血糖値を下げる薬も効果がありません。初めからインスリンが必要になります。そして、このワンコさんのように、インスリンの注射をしないという選択は、糖尿病の治療をしないということになります。

初めに糖尿病と診断した後も、色々な場面で来院されました。お腹を壊したり、皮膚の様子が気になられたり。一応は、大丈夫な量でご来院のときだけインスリンを注射しましたが、できることは限られていました。それでも、お母さんは、よかったよかったと笑顔でそのやり方を受け入れてくださいました。

次第に痩せていくワンコさんを見るたびに悲しい気持ちになりましたが、お母さんがいつも笑顔で、糖尿病以外の治療には、とても前向きでいらっしゃるし、糖尿病とわかる前から大切にされていることはわかっていましたので、お母さん一人だけのお家で、ワンコさんへの朝晩の注射を強いることは僕にはできませんでした。

お母さんは来院されるたびに、ちょっと前までは、まるまるとしていたのに、痩せていくのね、と微笑んでいらしゃいました。

このワンコさんがどうなったのか、気になりますよね。

僕がお伝えした、3か月よりは長く生きてくれましたが、体重がおおよそ半分ほどにまで痩せてしまってから、静かにお別れの日を迎えることになりました。

お母さんが、そのことをご報告下さって、先生が言ったよりも長生きしましたよと、覚悟の上で向き合っていらっしゃった様子を窺うことになりました。いつもの笑顔の中にも、何かとても深いお考えがおありだったのだろうと拝察いたしました。