日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

【何となくおかしいな?は、異常のサイン】ー犬の脾臓腫瘍ー

梅雨明けが待ち遠しい。新型コロナウイルスの影響もあり、気持ちがなかなか晴れてこない中で、空模様も今年はしっかりと梅雨の日が続いています。年によっては、梅雨だったの?という年もあるというのに、こんな時に限って記録的な大雨があったりします。

禍福は糾える縄の如しと言うようですから、これだけのことの後には、何か良いことが待っていて欲しいものです。

今回は、貧血のあるワンコさんが来院しました。

舌の色が薄くなっていまして、元気がなく、食欲も落ちているとのことでした。

ときどき、このようなことがあるということでしたが、今回は食べない日が続いたということです。もう少し様子をみようかというところだったようですが、何となくおかしくて、いつもとは違うということでご来院されました。

調べてみますと、重い貧血があり、お腹の中に何かできています。

詳しく調べると、脾臓に腫瘍があることがわかりました。

手術をすれば、取ることができそうです。

ご家族の方は、その選択しかないことをご理解されていてました。

いつも笑顔のお父さんは、ワンコさんをがんばっておいでと送り出され、お母さんは涙されていました。

危険を伴う手術ですので、安全性についてのお話をしますが、細心の注意のもと、いつものようにできれば、問題は起こらないはずです。

僕は臆病者なので、手術は毎回緊張します。手術準備としては、その方法についての準備はもちろんのこと気持ちの上でも準備が必要です。気持ちが揺れていると、少しもスキがあっては行けない手術に影響があってはいけないと考えています。

とは言いましても、手術準備は僕だけの問題なので大丈夫なのですが、気持ちについては毎回穏やかに保つことは困難です。いろいろな要因が絡みますので、手術の緊張だけではない何かしらの心の揺らぎはあります。もしかすると、大声で「ワッ!」などと言われると、特に手術直前は、倒れてしまうかも知れません。

しかし不思議なもので、一度手術が始まれば、大概のことには動じなくなります。これは本当に不思議ですね。気持ちがどこか他のところにあるような。きっと背水の陣で望まなければならないからかも知れません。何かあったときに、誰かに助けを求めることもできませんし、とにかく突き進むしかありません。そして、大切なワンコの命を僕に委ねて頂いた、お父さんの笑顔やお母さんの涙を思い浮かべながら、このワンコを元気にお返しすることに集中する時間です。

脾臓の腫瘍は、ほとんどの場合、脾臓ごと取り出します。

脾臓には何本もの血管がありますが、それを丁寧に糸で結んで切り取りということを繰り返します。当院にある、血管を超音波でシールする医療機器を使うことで、その速さは格段に早くなり、かつ、安全に手術を進めることができます。

麻酔係も驚くくらいに、皮膚を切開してから、脾臓を取り出すまでの時間が早く、かつ、ほとんど出血もなく手術が終わりました。

この医療機器がない時には、血管を全部手作業で処理していました。

今でも必要なときには、そうやっていますが、今回のように安全性とともに、とにかく速さが求められる場合には、とても助かります。

このワンコさんは、ご家族の方の手から食事をもらうのが好きみたいです。

お父さんは、ご面会の時には、必ず手で食事を与えていらして、いつもの笑顔で、完食しました!と教えていただいています。

まだ術後間もないので、もう少しは要注意です。

きっと元気になってくれると思います。

もうすぐ退院。

余裕などなく必死でしたが、一つ何かが果たせたきがします。