日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

天国のおじいちゃん

朝からいいお天気ですね。
それほど寒くはないですし、外で豆まきの行事があるところは多くの人で賑わいそうですね。
今日は休診日でしたからお昼は少しだけ出て、近くのお店のお弁当を買いにいきましたが、どこのお店も恵方巻き恵方巻きで驚きました
恵方巻きですとお腹がいっぱいになりすぎるような気がしましたから、動物病院の横で定食をいただきましたよ。
恵方巻きの多さにびっくりしました。

水天宮が新しく建て替わる前のことです。
小さなワンコを連れたおばあちゃんが、水天宮前交番でおまわりさん達とお話をされているのをよく見かけました。
おばあちゃんは手押し車と言うのでしょうか、歩きやすくするための小さな車で歩かれていました。
その横を小さなワンコがゆっくりと付いて歩く姿もよく見かけました。

ある日、そのワンコを連れておじいちゃんが来院されました。
よく交番でみかけるワンコのかかりつけとして、寄っていただけるようになりました。
大きな病気は少なかったのですが、咳が出たり、お腹をこわしたり。
ワンコを連れて来られるのはいつもおじいちゃんです。

かなり前のことですが、おじいちゃんはワンコのお薬を飲ませるようにおばあちゃんに言われたようでした。
しかしワンコに薬を飲ませるようにと言われたおばあちゃんは少しばかり物の理解が難しくなられていて。
おじいちゃんはそのことが心配ながらも、ワンコの薬の飲ませ方を間違えたのではないかとうちの動物病院へ相談に来られました。
この薬は数が合わないようだけど、飲ませ方を間違えたのではないだろうかという相談でした。
お話を聞くと、おばあちゃんが間違えたということで、叱ってから飛んで来た。そのような様子でした。

処方日や飲ませてもらっているはずの薬の数等を数えますと、ピッタリと一致していました。おばあちゃんは間違わずにワンコにしっかりとお薬を飲ませていらっしゃいました。

そのことをおじいちゃんにお話しすると、はっ、とした様子のおじいちゃんは受付のカインターからいすの方へ戻られ、そっと携帯電話をかけられました。
「ごめんね、間違いじゃなかったよ。ごめんね」
叱ってしまったおばあちゃんに、すぐにお伝えされたかったんですね。
ご自宅はうちから歩いて5分ほど。
それでも携帯電話で。

しばらくしておばちゃんが亡くなって。

何かあると、「一人だから大変だよ。」
そう言いながらおじいちゃんはいつも笑顔でした。
朝のラジオ体操には必ずワンコを連れて行かれ、たいそう仲間とワンコの話題になることがとても楽しい様子でした。

戦争体験のあるおじいちゃんからは、少しばかり戦争のときのお話も聞かせてもらいました。
明治座のところがね…。とか。

ある日、そのワンコを別の方が連れて来られました。
おじいちゃんの具合が悪いということでした。

そうしておじいちゃんも亡くなり。

その方がワンコを引き取られ、お世話されるようになりました。
そしてこの子には右耳の中に小さなできものがあり、それが原因で外耳炎が治りません。
手術をすれば治りますが、ワンコも高齢です。
心臓も気管も丈夫ではありません。

でも治らない外耳炎がかわいそうで、その方は思い切って手術を決断されました。
周りの方々からは大反対をされたそうです。
でも、私の決断でお願いします。

そう言われました。
それまで外耳炎の定期的な治療はもう何年も続いていました。
これで治せます。

老犬、心臓と気管。そしてちょこっと肥満
周りの反対を押し切ってでも手術を決断していただいた方にしっかりと向き合って。

麻酔をかけて、外耳道切開、腫瘍切除、とすすめました。
手術は無事に終わりましたが、手術から2日目に突然の気管虚脱からの呼吸停止がありました。
すぐに呼吸を補助するチューブを気管に入れて人工呼吸に切り替えました。

ワンコも手術を頑張ってくれましたし、周りの反対を押し切って連れて来ていただいたこともありますし。
生命力でしょうか、ちゃんと回復してくれました。

呼吸停止から回復することは多いことではありません。
そのまま心臓停止へ向かうことが多いことです。
奇跡的というような回復でした。

今は耳の手術痕の抜糸も終わり、いつものように元気です。
耳全く問題がなくなりました。

空の上からおじいちゃんが見ていてくださったのかも知れません。
おじいちゃん、ワンコの耳、よくなりましたよ