日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

アメリカ育ちの女の子

すっかりと寒くなりました。
そのような中、今度の9日(土)、10日(日)は院長不在です。
北海道の大学で行われます整形外科のセミナーに参加します。
不在中は世田谷区のひとつ動物病院の院長が診療を担当させていただきます。

北海道では10日の日曜日には雪との予報です。
寒いのは好きなので楽しみです。

今回のできごとは数か月さかのぼります。
数年前から、当院をかかりつけとしてご利用いただいているワンちゃんのお話です。

飼主さんがお出かけ中に、ワンちゃんをペットホテルにお預けになりました。
そのペットホテルからお電話をいただき、ワンちゃんの様子がおかしいとのことでした。

連れて来ていただくようにお話をし、来院した時にはすぐにでも手術が必要な状態でした。
これまでも当院で何度かの手術を乗り越えてくれた子です。
これまでと違うのは、14歳になっているという年齢的なこと。
しかし、手術をすれば助かるし、しなければ危険な状態になるだろうということは明白でしたので、手術をしない選択はありませんでした。

飼主さんはその時に遠くへいらっしゃって、連絡がなかなか取れませんでした。
ペットホテルの方もどうすればよいだろうかと悩んでいらっしゃいました。

飼主さんと僕とのお付き合いは長いので、どのような選択をされるかはある程度予想できていました。
それでも、いろいろとご説明申し上げないといけないことがありましたし、手術の承諾を得なければなりません。

その後どうにかお電話が通じ、お話をすることができました。
とてもとても心配されているのが痛いほどわかります。
おそらくはとても芯が強い方だと思いますが、遠方にいらっしゃって、しかも生命の危機があるとなると落ち着くことはできないだろうと思いました。

このワンちゃんはアメリカ育ちの女の子。
飼主さんと共に日本へ来ました。
とてもかわいらしい、小型のワンちゃんで、少し微笑んでしまうのは、このワンちゃんもしっかりと自分を持っていながら、普段はとてもおとなしく、いくらかキョトンとして見えることです。
でも、他のワンちゃんを見ると、途端に元気いっぱいモードに切り替わります。
(飼主さんに似ていると言っている訳ではありませんよ)

今はその子が危ない状態。
飼主さんの承諾を得てお戻りになられる前に手術をすることになりました。

この子を生きて飼主さんに会わさなければならない。
そんな使命感というものがありました。
飼主さんが遠方にいらっしゃるときにもしものことがあれば、飼主さんの後悔はいかばかりだろうか、そして僕自身も必ず後悔するだろうと考えました。

手術手技はいつものもの。
決して難しい手術ではありませんが、あとはワンちゃんの体力やお腹の中が現在どのようになっているかが、最終的にはお腹を開けるまでわからないことが心配事ではありました。

飼主さんのご家族の方々がお見えになり、いろいろとご説明した中で、手術へ突入。
慎重に慎重に手術を進めました。

幸いにもとてもよく麻酔からも覚めてくれましたが、やはり元気がないのはしばらくは続きました。

飼主さんとはあまり個人的なお話をしたことはなかったのですが、お母様から、このワンちゃんのことを伺う中で、飼主さんのこともいくつか聞かせていただきました。
異国の地でこのワンちゃんとどのように暮らしていらしたか、少しだけ垣間みることができました。

手術が終わり、飼主さんも戻られ、それでもしばらくは入院が続きました。
だんだんと元気になってくれて、そして退院の日を迎え。

どうぶつ達にはそれぞれにこれまで生きてきた証があり、その多くは飼主さんとの生活であり、純粋に飾る事なく向き合ってきた関係があり。

いつかは別れの日がくるわけですが、その日がくるまではできるだけよい想い出だけであって欲しいと思っています。

遠い国からやって来たこの子に限らず、どうぶつ達にとっては唯一の家族。
他に代わりがあるわけではありません。
そして多くの場合、人にとってもかけがいのない存在。

僕の場合、多くの方々のそのような関係を少しだけ見せていただける、そんな幸運に感謝しています。

手術からもうそろそろ半年が過ぎます。
ワンちゃんも穏やかに年を重ね、大切な飼主さんとできるだけ長く一緒にいられるといいなと、そう思っています。