日本橋動物病院だより

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犬の前十字靭帯断裂 TPLOという手術

4月になり桜が散り始めて新緑が鮮やかになってきました。風に少しずつ温度が乗ってきて、やや強めの風でも冷たさを感じなくなりました。

今回は、1本の電話からはじまりました。

TPLOの手術をしていますか?手術費用はいくらですか?

犬が膝を怪我してしまい、とても心配なのに加えて他にも不安なことがたくさんある、そのような印象でした。

犬の膝には前十字じん帯という靭帯があります。前十字じん帯が切れてしまうと、治療が必要です。治療には外科手術が行われることがほとんどですが、これにはいくつかの手術が適応されます。TPLOとは、前十字じん帯断裂の犬に行う手術方法のひとつです。

・TPLO

・関節外法

これらが、犬の前十字じん帯の断裂で行われる手術方法です。どちらを選択しても良い結果が期待できますが、それぞれに合併症もあります。合併症とは、手術をすることで起こる良くないできごとです。この他にTTAという手術や他の方法もありますが、今ではあまり行われません。

TPLOの手術費用は、30万円くらいから50万円くらいが多いのではないでしょうか。これは、統計をとったわけではないので、僕がTPLOをやっている獣医師さんに聞いてみた印象です。他の動物病院で手術を受けられた方の中には、70万円ほどかかったという方もいました。

手術の成績が良いのはTPLOで、最大のメリットは、犬が手術後比較的早期に歩けるようになることです。デメリットは合併症が起こると、その修復が難しいということと手術費用が高いということ、そして、これは手術そのもののデメリットではありませんが、TPLOが行われる動物病院が少ないということです。

このお電話につながる流れは、きっとこうだったに違いありません。

・犬が後ろ足を引きずったり、床に足をつかなくなる

・かかりつけや、近所の動物病院で受診する

・その動物病院で、前十字じん帯の断裂と診断をされるか、整形外科疾患として、二次診療施設を紹介される

・二次診療施設で前十字じん帯の断裂と診断をうけ、TPLOを勧められる

・TPLOの手術費用が高額だったり、その他の不安から、TPLOができる他の動物病院を探す

このようにして、さっきのお電話があったはずです。

ご家族の不安にはいくつかあると思いますが、

・高額な手術費用についての不安

・かかりつけではない獣医師に対する不安

・しっかりと治るまでの過程がみえない不安

これらの不安が大きいと考えています。

そして、そもそも手術ではないと治らないのか?という心配もあるはずです。

早速ご来院されました。前の動物病院でも検査はされていましたが、改めて傷めてしまった膝をじっくりと触診しました。

いろいろとお話をして手術費用のご説明や入院期間のお話が済んだところで、手術を希望されましたので具体的な日程を決めて、当日を待つことになりました。

当然ご心配はおありでしょうが、手術当日は笑顔でお連れいただきました。

慎重に、慎重に手術を進め、終わるとちょっと僕自身が少しぐったりとしてしまいます。集中し過ぎて、終わった途端に甘いものが欲しくなるのはいつものことです。

術後経過も良く、予定の退院日まで順調に過ごせました。

TPLOの良いところでもあるのですが、退院の日にはある程度歩けることが多いですね。そして次の診察のときには、手術をした足をかばいながら3本足で歩いたり、4本足で歩いたりするようになります。

次第に4本足で歩くことが多くなり、そのまま普通に歩けるようになっていきます。

犬の前十字じん帯の断裂は、前十字じん帯が変性を起こすことで切れてしまうものです。変性とは、柔軟な繊維だったじん帯が硬くなって柔軟ではなくなります。

多くの場合、この変性は左右の足に起こっています。ケンケンしている足にだけ起こっているのではありません。

統計的には、前十字じん帯が切れてしまった犬の半数は、2年以内に逆足のじん帯も切れるといわれています。

どうにか片足だけですみますように。まだ術後の経過観察期間ですが、そう願っています。