日本橋動物病院だより

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仙台に行ってきました -前十字靱帯損傷-

寒い日が続きいますが、今日は暖かな日になりましたね。

昨晩は雪の予報でしたが、日付が変わるあたりでも雪ではなく小雨がシトシトと落ちてきていました。
一変、今朝の綺麗に澄んだ空が心地よいものになりました。

年が明けて10日ほど経った週末に仙台に行ってきました。
獣医麻酔外科学会が開催されました。
国内外のいろいろなセミナーや外科コースに参加していますが、なかなか国内の学会に参加することができなかったのですが、今回は興味を持っているテーマがあり、どうしてもその話を聞きたかったので、思い切って出かけてみました。

学生時代は東北で6年間を過ごしました。
それからずいぶんと時は流れましたが、東京とは違い、キンと凍り付くような寒さが懐かしく感じられました。

外科の中でも整形外科に興味をもっています。
骨折の治療、靱帯の損傷そして関節の病気。
特に膝のお皿(膝蓋骨脱臼)のことや靱帯(前十字靱帯損傷)のことが話題となっていました。

多くの飼い主さんにとって、少し不思議な感じがするかも知れませんが、実は動物の整形外科の分野には未だにどのように治療をすればよいのか、どの手術方法が最も良いのかの議論がずっとずっと続いているものがあります。

この手術方法が最もよい!という結論が出ていないものがあるということです。
しかし、手術方法が無数にあるわけでもなく、どれも成績がよくないわけでもなく、3つ前後ほどの手術方法であればだいたい間違いのない治療ができることも確かです。

どれにも大きな問題点があるというよりは、どれもある程度のよい成績が得られています。良いからこそ、捨てきれないというところでしょうか。

昨年末に膝の靱帯の手術をしたワンちゃんがいます。
歩き方を観察したり、慎重に触って診察をしたり、レントゲン検査をして前十字靱帯の損傷であることを確定した後で、飼い主さんに手術方法の説明をしました。
同時に、手術をしない方法も選択できることもお話しました。

前十字靱帯は膝にある靱帯で、太ももの骨とスネの骨をつなぐものです。
これが痛んでしまいますと、その足を上げて、他の3本の足で歩くようになります。
程度が軽い場合には、あげないまでもヒョコヒョコと歩く子が多くいます。

体重によっては手術以外は治療方法がない場合もありますが、体重が軽い場合には手術以外の保存療法と呼ばれる包帯やサポーターを使った治療も選択されます。
しかし、この場合は治るまでに結構な時間が必要ですし、最終的に手術が必要になることもあります。

ワンちゃんのご家族の方は手術での治療を希望されました。

前十字靱帯損傷の手術方法は現在だいたい3通りあります。
当院ではそのうち2通りの手術ができますが、ワンちゃんの骨の形と体の大きさから、今回うちでできる手術は1つしかありません。

おおよそ15年前に手術方法の1つを開発して、それを世界に広めたスイスのドクターがいます。
メールでレントゲン写真を送って意見を求めました。

やはりこのドクターも今回のワンちゃんの足には適さない手術方法があるとの意見でした。

選択は、当院でできる1つの手術か、うちでは準備のない別の手術方法かです。
うちでできない手術につきましては、幸いに近くでできる動物病院がありますので、そちらをお勧めしました。

飼い主さんはワンちゃんがよく慣れているからということで、当院での手術をご希望されました。

こういうときにとても責任の重さを実感します。
簡単な手術でありませんから、うちではできないので他をご紹介しますと言ってもよいかも知れません。
しかし、飼い主さんの思いを考えますと、ワンちゃんが行ったことのない不慣れなところで手術と入院をするよりは慣れたところでやってくれた方がよいとのお気持ちはとてもよくわかります。

そうは言いながらも、十分ではない技術である程度の手術をご提供することもできません。
お任せいただいているならば、水準以上のことが必要です。

ここにジレンマがあります。
当院のようにいわゆるかかりつけの動物病院の場合、このような特殊な技術を必要とする手術は年間そう多くはありません。
設備、知識、技術、スタッフのトレーニングを考えますと、特別な手術ということで、他の動物病院に行ってもらうことも悪くはない考えかも知れません。
それでも十分な準備をしておきたいと思うのは、今回のワンちゃんの飼い主さんのように、慣れたところでやって欲しいというお気持ちに応えからだけです。

スイスのドクターと初めて会ったのは2年ほど前のラスベガスのトレーニングセンターです。その後もお会いする機会があり、ときどき今回のようにメールでやり取りをします。

現在準備はありませんが、今はまだ当院ではできないもう一つの手術方法につきましても、アメリカでトレーニングを受けました。

手術を得意として多くの動物病院から紹介を受ける先生とは違って、かかりつけの動物病院としての質にこだわりがあります。
お一人お一人と長くずっとずっとお付き合いをしていきたいという気持ちからですが、この気持ちが一人のためだけであっても仙台でもアメリカでも突き動かしてくれます。

自己満足と言われるかも知れませんし、事実、そうかも知れません。
それでもよいと思っています。

今年も2月にアイオワ州立大学で神経外科のコースに参加します。
ここでは脳から首、背中、腰の神経に関わる手術全般のトレーニングコースが開かれます。

まだまだ勉強が必要です。
元気になったワンちゃんとそれを見る飼い主さんの笑顔を思い浮かべながら、微力ながらやれることをしっかりとやっていきたいと思っています。