日本橋動物病院だより

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犬の歯周病と全身麻酔のお話

もう真夏ですね。梅雨明けも例年に比べてかなり早かったようですね。今年も梅雨明けは7月の中旬になるのではないかと思っていましたから、嬉しいお知らせでした。今年の夏はどうなるのでしょうか。梅雨明けが早まった分、猛暑日が増えるのかも知れませんね。

最近、歯周病についてのお問い合わせが多くなっています。
お電話でのお問い合わせやご予約が毎日あります。
それを受けまして、ほぼ毎日のように歯石除去を含む口腔処置を行っています。
多くの飼主さんは、ワンコの歯石や口臭が気なるということで来院されます。
歯周病の治療には、歯石の除去が必要です。もちろん、歯石がなくなれば必ず歯周病が治るわけではありません。他にも必要なことがありますし、ご自宅でのケアも欠かせません。

歯周病の治療にせよ、歯石の除去にせよ、全身麻酔が必要です。
ワンコのご家族の中には、歯の治療に全身麻酔?と、心配される方もあります。
全身麻酔での歯科処置を心配される方は、昔はもっと多かったのですが、最近はワンコの歯科処置には麻酔が必要なことが広く浸透してきていまして少なくなりました。

ワンコの場合は、いわゆる虫歯(齲蝕)はほとんどありません。
歯周病が多いのですが、歯の根っこが化膿していることもあります。根尖膿瘍と呼ばれるものです。ときに、目の下が腫れたと来院されることがありますが、多くは上顎の奥の方の歯の根っこに化膿巣あることが原因です。
また、クシャミが多くて鼻水が出るという場合、上顎の犬歯の根っこに化膿巣があることが原因になることがあります。

できれば、こうなる前に治療をしたいのですが、初期の根尖膿瘍があるか否かは外から見ただけではなかなかわかりません。歯、周囲組織、そして顎の骨をしっかりと撮ることができるX線検査が必要です。口の中にセンサーかフィルムを入れて、頬っぺた側から撮影します。これを麻酔無しで行うことは不可能でしょう。

歯周病治療に欠かせないのが、歯と歯茎の隙間(歯肉溝)の処置です。スケーリング、ルートプレーニング、キュレッタージといった処置を行い、重度の歯周病でできてしまう歯周ポケットを改善する必要があります。歯石の除去は、すべての歯と歯茎の隙間を処置しますので、当然ながら、麻酔無しで行うことは大変危険ですし、特に口の奥は不可能だと思います。

全身麻酔を心配されるご家族に、無麻酔での歯科処置を提供するところがありますが、本来最も丁寧に処置をしなければならない歯を歯茎の間が放置されます。日本小動物歯科研究会は、無麻酔での歯科処置は危険行為であると見解を公開しています。

http://www.sa-dentalsociety.com/


今週のことです。
とっても小さいワンコの歯科処置を行いました。
体重が1.8kgしかなく、年齢は10歳です。
おそらく全身麻酔については、ご心配も大きかったと思います。
小さな体ですし、ある程度の年齢もありますし。
ご家族の方も全身麻酔のリスクについては承知されながらも、100%安全な訳ではありませんから、終わるまでは不安だったと思います。

麻酔を始める前には、必ず血液検査を行います。

そして多くの場合、同時に胸部X線検査を行います。それで麻酔をかけても大丈夫かがわかる訳ではありません。どちらかと言いますと、その検査結果の中に麻酔をかけてはいけない理由がないことを知ることになります。
残念ながら、麻酔をかけても問題がないことが事前にわかるような検査はありません。最終的にはかけないとわかりません。
当院では、麻酔中、麻酔後に麻酔を原因として亡くなった子はいませんが、それはこれまでの実績であり、今後のことについて楽観的になることはできません。
毎回相当に慎重に麻酔操作を行いますが、いつかはどうすることもできない出来事がないとは限りません。
獣医師人生の中で、そのようなことに一度も遭遇せずに終われることが強い願いではありますが、これはある一定の確率で起こるという統計があります。

小さなワンコは、事前の検査では問題はありませんでした。
それでも小さい子ですから、麻酔の導入は非常にゆっくりと行いました。
ゆっくりと麻酔がかかり、麻酔中の呼吸を補助する気管挿管を行い、まずは歯のレントゲンから行います。当院の歯科用レントゲンは、デジタルでセンサーを口の中に入れ、外からX線を照射するものです。照射から2-3秒でパソコンモニタに検査結果が現れます。
その後は歯石の除去です。1本ずつ丁寧に歯石を除去していきます。歯と歯茎の間もそっとそっと痛めないように歯石を除去し、ルートプレーニング、必要なところにはキュレッタージを行います。


大まかな流れは、午前中に来院していただき、内科検診、麻酔前の歯科検査、麻酔前の血液検査、胸部のX線検査などを行い、午後に全身麻酔下での歯科検査と処置を行います。終わったら、麻酔からの覚めを確認して、お迎えを待ちます。
ほとんどの子が麻酔から覚めるのは、処置が終わってからおおよそ5分以内です。歯科処置が終りそうになりますと、麻酔量を少なめにしていきますので、終わると同時に覚めることもあります。

ご家族の方のお気持ちは色々なところで知ることができます。
口腔処置を行う場合には、午前9時から10時ごろまでに来院していただいております。そしてお迎えは午後5時から8時の間でお願いしています。中には、10時ギリギリで連れて来られ、5時になったらすぐにお迎えにいらっしゃることがあり、ご心配だったのだろうと思いますね。
ご家族がお迎えに来られますと、みんな麻酔からはすっかり覚めていて、ほとんどの子がだいたい連れて来られた時と同じくらいに元気に動けるようになっています。

この小さなワンコのご家族もそうでした。
5時になってお家の方が診察に入って来られると、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいました。

その瞬間、ご家族笑顔を見ることができます。
思ったよりも元気そうですね。麻酔ってことだったから、ぐったりしているのかと思いましたよ。この感想を聞くと嬉しくなりますね。そして、真っ白になって臭いがなくなった歯をご覧になって、もう一度驚かれます。キレイ!!
そして嬉しくなるのは、半年以上過ぎてもなおキレイなままで維持されているときですね。
歯科処置を行うのは、おおよそ1年から2年ごととされます。ご自宅での歯磨きや、犬種、口の中の環境、体質などなど、いろいろな条件により、再度歯科処置を必要とするまでの期間は異なります。
もちろん自宅で毎日歯磨きをしていれば歯科処置は必要ないということはない訳で、そこは人と同じです。ただ、歯科処置の間隔を長めに取ることはできると思います。

昨日も病気が原因でかかりつけの動物病院から歯科処置を要検討として、長い間具体化できてないというご家族からご相談があり、行いました。
終わった後の元気な様子と、キレイになった歯をご覧になり、喜んでいただけました。何でもっと早くやらなかったのだろうかとお話しされていました。

特別なことをしている訳ではありませんが、全身麻酔については、いつも楽観視することなくとにかく慎重に行なっています。当たり前のことですが、とても集中力を必要としますし、できるだけ短時間で必要な処置を行うためには、それなりの技術も必要です。

全身麻酔や歯科処置そのもについて、難しい子達を多く処置させていただいていますので、いろいろと体験数も増えてきました。
歯の問題は、毎日の食事のときに気になることですし、口臭はこれから室内の温度が上がってきますと同様に気になるものですし、解決されますと生活の質が高くなります。
ワンコさん達が快適に過ごせますように、そしてご家族の方がどうぶつとの生活を楽しんでいただけますように、僕たちにできることを一つずつ丁寧に行なっています。