日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

これからもずっと臆病者でいいみたいです。

テレビを観ました。
録画していたドキュメンタリー番組です。
同じ番組のそれぞれ別の日のものですが、2人の外科医のお話でした。
2人ともヒトのお医者さんです。

テレビで取り上げられる程ですので、特別秀でた実績のある外科医です。
おそらくは、この方々にしかなし得ない手術が数多くあるであろうと容易に推察できます。

つまりは、この方々にしか救えない命があるということです。
これまで数多くの難題に取り組み、懸命に明るい未来を作ってきた方だと思います。

その方々はお互いに面識があるのかは不明ですが、おそらくは同じ外科医でも異なる分野ですので、面識はなさそうですが、同じことをお話しされていました。

いつだって怖いですよ。

そのような内容でした。
手術に臨む時には、とにかく準備を怠らないこと。
一人の外科医は「手術は、始まる前には終わっている」くらいに事前準備が大切だと言いました。

僕は獣医師で、この方々のように、僕にしか救えない命はありません。
もし、僕が必死に健闘して守ることができた命があったとしても、それは他の誰かにもできたことでしょうし、もしかするともっと楽に、上手に成功を納められたかも知れません。

そのような僕でも、そのような僕だから、この外科医の方々のように、毎回ある程度の恐怖を抱きながら手術に臨んでいます。

おそらくはその恐怖心が大切なのだと思います。
恐怖心を抱く外科医は多くいるはずです。
そこから先は別れると思います。
準備を十分に行ってできるだけ恐怖心を希釈しようとする人と、怖い気持ちのまま突き進み、怖い気持ちのままで終わる人と。

僕は手術をするときに、思い浮かべるのは、元気になったどうぶつ達の姿と、手術中お家で成功を祈っていらっしゃる飼主さん達、そして僕の手術を全力でアシストしてくれる動物看護師達です。

そのみんなが笑顔になるように準備をしますし、手術の行程を一つずつ進めていきます。

特にうちの看護師達は、幸いなことに、僕が手術で失敗をするところを見たことがありません。だからでしょうか、信頼してくれています(そう願っています)。看護師達は僕の最も近くにいますから、突然手術中に無口になった僕の心の裡を読み解き、いろいろと先回りをしてくれます。僕は彼女達の一生懸命に応えたいという気持ちがあります。

こんな臆病な獣医師の手術に毎回しっかりとつき合ってくれて、逆に何回も助けてもらっています。
僕は臆病者だから、そう言うと看護師達は笑います。
臆病な姿を見せないように取り繕っているつもりです。
それが故に彼女達はそう思っていないのかも知れませんし、もしかすると、そんなことわかっていますと言うことかも知れません。

ちょっと話がそれましたが、臆病はどこかで克服できるものかも知れないと思っていました。
克服できないまま、獣医師になって20年が経とうとしています。

そんな中で観たテレビに励まされています。
これからもずっと臆病者でいいみたいです。
しっかりと成功を納め続けられるように。