看取り - 犬の胆嚢炎 –
あまり寒い冬にはならないと、そう予報されていたような。確かにそこまで寒くはない日もありますが、冬には違いありません。寒い。
今日は、テレビドラマの撮影の方が来られています。寒い朝の設定のようで、動物病院の外で撮影中です。それにしても、獣医師役の俳優さん、背が高いしかっこいい。
さて、本題です。看取りについての話です。難しい問題ですが、生命あるもの、永遠はないので、いつかは考えないといけません。
何度も吐き戻してしまうということで、夜間の救急に行かれたワンコの飼い主さんから問い合わせの電話がありました。夜間病院で検査を受けた結果、入院して治療をすることになったとのこと。その治療をうちで引き継ぐことはできないかという相談でした。
15歳を超えたワンコ。夜間病院では胆嚢炎との診断。ワンコの容態次第ですが、夜間病院から当院までの移動ができるようなら、治療の続きをうちで引き受けることになりました。
胆嚢は、お腹の中で肝臓にくっついていて、肝臓で作られた胆汁という液体をためているものです。胆汁は、脂肪の消化を手伝います。肝臓から胆嚢へ運ばれた胆汁は、胆嚢で濃縮されて貯められておかれ、胆管という管を通って小腸に流れ出します。この胆嚢が炎症を起こしているとのことです。
ご家族の方は、入院するなら自宅に近い当院の方が安心みたいです。そうですよね、初めての場所、初めてのドクターより、知っているところの方が相談もしやすいと思います。
連絡があった日の翌日、夜間病院の獣医師から移動可能との許可が出ました。
転院してきたワンコには黄疸がみられます。胆嚢に病気がある動物にはよくあることです。目の白いところ、口の中、皮膚が黄色に染まっています。見た目に状態は安定していて、移動してきても体調には変化はなさそうです。
お母さんは、ワンコを温かそうな毛布で包んで、夜間病院での治療内容をまとめた引き継ぎ書を持って来られました。とても心配そうですが、難しい状態を受け入れていらっしゃいます。
夜間病院での検査結果を見せてもらうと、うちの動物病院でも調べないといけない項目がありそうです。お母さんには、今後の見通しは追加検査の結果がでたら詳しくお話しますと伝えて預かりました。
ワンコは、腕に留置針というものが付いていて、すぐに点滴を繋げるような状態です。点滴を始めて、ワンコの状態をみながら、良さそうなタイミングで必要な検査を進めていきました。
はじめにやるべきは超音波検査です。夜間病院で済んでいる検査ですが、胆嚢炎は状況が変化することがあります。悪化することがあれば、手術を検討しなければなりません。お腹を超音波で検査してみました。
結果、胆嚢破裂が起こっています。夜間病院からの引き継ぎ書にはなかったことです。胆嚢炎が進行すると、胆嚢という袋が破けてしまうことがあります。このワンコの場合には、薄皮1枚でどうにか保たれてはいますが、それが破綻すれば胆汁が漏れ出して急性腹膜炎が起こり、おそらくは助からないでしょう。
唯一の解決策は、開腹手術をして胆嚢を取ってしまうことです。胆嚢がなくても生きていけます。もし気をつけるとすれば、脂質を一気に多く取らないようにすること。
胆嚢切除は、これまで何度も行ってきた手術です。今回は、胆嚢破裂を起こしているので、胆嚢を特に優しく取り扱わなければなりません。ご家族の同意があれば、すぐにでも手術をするべき状態です。
飼い主さん、ご家族はどのような決断をされるのか。治すためには、手術しかない。でも、かなりの高齢、入院するほど弱っている状態で手術に耐えられるか。進むことも、止まることも難しい。とても難しい決断が求められるところです。
そして、ご家族の決断は、手術はしない。ということでした。つまりは、看取りを見据えて、緩和に徹するということです。もう高齢。手術はしないと決めています。とのことでした。
胆嚢破裂をしているので、いつかはさらに厳しい状態になります。そのときはお別れのときです。もし、とても幸運だとしたら、どうにかこの状態を脱して、穏やかに生活できるかも知れません。
僕が考えたのは、このワンコの最後は、どうあると良いのか、ということ。このまま病院で入院して、最後の最後だけご家族をお呼びすれば良いのか。
このあたりの判断は、かなり主観的なものになります。僕だったら、一度は犬を自宅で過ごさせてやりたいと思うでしょう。そこで、ワンコの状態が落ち着いてきたところで、一時帰宅の提案をしました。血液検査数値もワンコの容態も落ち着いた、入院から4日目の事です。
いつ何時という状態は変わりませんが、1晩か、できれば2晩でもお家に帰ることができればという思いがありました。
いいんですか?お母さんは、心配そうではありましたが、一度帰宅することになり、近くにお住まいのご家族を召集されたようです。そして、退院した翌朝に電話がありました。元気がなくなってしまって心配とのこと。すぐに来ていただくことになりました。
ワンコはブランケットに包まれて、ご家族に抱っこされて来院しましたが、明らかに元気がありません。たまたま帰った夜中に調子を崩したのか。お母さんも、家で見るのは不安だということで、その後は病院で入院管理をすることにしました。
昨晩は一緒に寝たんですよ、満足です。お母さんは嬉しそうに話してくださいました。
手術でしか治らない病気。でも手術は希望せず。家では心配なので、病院で緩和ケアを希望。このワンコはこれから最後の日までを病院で過ごすことになります。幸いにも、再入院から2日目には、穏やかな状態に戻りました。ちょうどそのタイミングで、またご家族の皆さんで面会希望です。
夜は当院で看ています。それでご家族が安心されれば何よりです。とにかく、穏やかに旅立てるように願っています。