日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

18歳のお誕生日まで、もう少しですよ。

お久しぶりの投稿になります。

よくブログを読んでいるとお声をかけていただくのですが、なかなか更新できずにおりました。年始からいろいろなことがあり、1月の1か月で、1年分に近いタスクに関われたような気がするほどです。

動物病院でのお仕事は、何年やっても慣れないこともありますし、初めてのできごとに遭遇することもあります。その度に、わずかにでも上がった経験値を還元できるようにと言う気持ちになります。

ブログを読んでいただいた方の中には、高齢犬で歯科処置をした記事のことをお話ししてくださる方も多いので、今回は別の話題にしよかと思いましたが、印象深いことがありましたので、直近で行いました高齢犬の歯科処置のお話しです。

小型のワンコが来院しました。あと2週間ほどで18歳になる子です。

顔が腫れています。そして、目の上にもコブがあります。すぐに、歯周病が原因だとわかる状態でした。いつもは食欲が旺盛で、食べないなんてことはこれまでにはないと言うくらいに、食欲だけは落ちることがなかった子が、食べようとしないと言うのが、ご家族を一番心配させていましたし、悲しことになっていました。

この子は、まだ1歳にもならないうちから、ずっと診せていただいている子です。僕がまだ分院長をしていた頃からのお付き合いで、日本橋の動物病院を始めてからもずっと通ってくださっています。その当時、まだ小学生だったお姉ちゃんは、もう社会人です。

定期的にご来院がありましたので、歯周病のことは分かってはいたのですが、全身麻酔での処置に対してなかなか決断が難しかったようです。しかし、今回は顔が腫れて、目も腫れて、食事も取ることができなくなりました。

このままだと、このままです。

ご家族は、かなりの高齢になってからの全身麻酔と言う、難しい決断を迫られることになりましたが、このままでは良くないと言うことと、この子なら頑張ってくれるだろうと言うことで、全身麻酔での手術を行うことになりました。

麻酔を使わない状態では、わかることが限られてしまいます。歯周病は間違いありませんが、その歯周病に関連して、口の中に腫瘍があることも否定はできません。歯周病だけだと想定して全身麻酔を行って、抜歯をしたまでは良かったけれども腫瘍が大きくなって、顔の腫れが酷くなると言うことも可能性としてはあります。

何よりも、全身麻酔で命を落とすことも、ないとは言えません。そのこともご理解された中での決断でした。

僕も、これまでの長い長いお付き合いもありますし、それぞれの子に、それぞれの思入れがあります。お付き合いが長ければ、それだけ何かあってはいけないとも思いますし、また、初めての方であれば、お付き合いが短い中でも、信頼をしてお任せいただくのだからと言う使命感のようなものをあります。

いずれにしても、犬の健康であったり、ご家族の方の安心や笑顔を考えながら処置をしていますから、それ逆行する方向へは後退したくはありません。そして、麻酔管理を含め、いろいろなことろで懸命に補助をしてくれる動物看護師のみんなのことも考えます。一生懸命やった結果には、それなりの達成感が必要です。

お父さんとお姉さんで連れて来ていただき、頑張れよ!と声をかけてもらったワンコをお預かりしました。

ゆっくりと、相当にゆっくりと麻酔を開始して、しっかりと効いたところで、口腔処置や抜歯を始めました。腫れた顔の原因になっている奥歯をドリルで分割して抜きました。この歯は、根っこが3本になっている歯ですので、分割なしでは抜歯ができません。いくつかの関連した歯の処置も行い、そして、おそらくは最後の歯科処置になるはずですので、キッチリと他のところも確認しました。

歯石の除去も行い、1本1本磨き(ポリッシングして)、歯周病治療のためのルートプレーニングやキュレタージも同時に進めました。

そして、目に上のコブを切開して、膿を出して、またそこを洗浄しました。初めは濁った海が出て来ましたが、だんだんと排液が澄んできて、最終的にはキレイになりました。

この子は、数年前から心臓の薬を飲んでいて、直近では腎臓に関係する血液検査上の数値も上がっていたので、麻酔だけではなく点滴などの補助治療もかなり慎重に行いました。全て終わってから、麻酔から覚めてもらいました。

麻酔からの覚めは良好で、遅いこともなく、速やかな覚醒が得られました。うちの動物病院の場合、麻酔から覚めるのは、手術が終わってから多くは5分以内です。99%くらいがそうです。ときに、5分くらいしてから覚める子もいますが、そのときには、ちょっと遅いよねって心配することがあります。

いつもですと、日帰りしてもらうのですが、この子は腎臓にも問題がありましたから、その治療をするために1泊してもらいました。すると、手術が終わったその日からドライフードをカリカリと食べるようになりました。食欲がないことが、ご家族に大きな決断をさせた理由の一つですが、その日に解決したことで、ご家族はまずは一安心されていました。

翌日には退院して、数日だけ通院してもらって、ひとまずの治療は終了しました。

お父さんが1週間ほどお仕事でご不在でしたから、ご帰宅されたときには、見違えるように元気になって、いつものようによく食べるシニアワンコになっていたはずです。

もうすぐ18歳のお誕生日。盛大にお祝いしてくださいね、そうお話をすると、ご家族の皆さんは笑っていらっしゃいました。

どこまで元気でいてくれるかな、穏やかに過ごしてくれるといいな、そんな思いです。