日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

のらネコさん

夜中の急患で、いつもワンちゃんを診せていただいている方からお電話をいただきました。
しかし、今回はいつも連れて来られるワンちゃんではありません。
のらネコさんです。
お仕事先の車の下から時々「にゃ〜」と聞こえるのだそうです。
しかしそれがどこから聞こえるかはわからない。
やっと見つけたのはタイヤの近く。
でもそこから救出することができない。
どうにか覗いてみると、どこからか出血をしている様子。
ぐったりとして、動けないところをやっと救出できたとのことでした。
そのままお仕事先から当院へ。
自分のネコではない、しかも治っても飼ってあげることができない。
せっかく助けても、また外に離すのも難しい。
しかし、保護してくださった方は、まずは命優先ということで、治療をご希望されました。
検査の結果、膀胱炎→膀胱結石→尿道閉塞→急性腎不全→肝障害→さらに膀胱からの出血→重度の貧血→そして虚脱、という状態でした。
横たわったまま動かずに、意識はほとんどありません。
時々「にゃ〜」と鳴きますが、無意識に近い状態です。
保護された方は、かわいそうにな〜と体を撫でてくださいます。
かろうじて息がある程度で、動くことができません。
レントゲン検査をしてお腹の異常や骨折などがないかを調べ、血液検査をしました。
尿道カテーテルという細い管を通して排尿させます。
腕の静脈に点滴をつなぎ、血液検査で判断した点滴液を流しました。
体がかなり冷えていましたから、ヒーターをネコさんの部屋に入れて温めました。
翌日の血液検査では腎臓関係の数値が改善しましたが、貧血はかわらず、そして肝臓酵素も戻りません。
栄養状態も悪かったので、細い管をつかって胃に栄養を入れました。
当然のことですが、できるだけのことをする。
僕も可能な限りやらせていただきました。
看護士達も一生懸命やってくれました。
しかしながら、意識が戻らないまま3日目の午前中にゆっくりと旅立ちました。
もともと白いネコちゃん。
でも、のら生活が長かったからか、黒に近い色になっていました。
息がないことを確認した後で、看護士がシャンプーをして、丁寧にドライヤーをあてて、真っ白い元々のきれいなネコちゃんにしてくれました。
保護してくださった方はすぐに駆けつけてくださいました。
「きれいにしてもらって。楽になったな、ゆっくりと眠れよ。」
「先生、苦しくはなかったよね。」
保護された方は、はじめは相当に悩まれました。
どうぶつ病院へ連れて行くべきか否か。
しかし、のらネコさんはお仕事先の車の下にいたわけですから、この子が望んだ場所とはいえ、そのままにはできませんでした。
元々意識がない状態です。
そのままでも人目を避けて旅立ったかも知れません。
連れてきてよかったのだろうかと。
結局は旅立ちの日は少し先に伸びただけかもしれませんが、大きな違いがあります。
安らかに旅立てたことです。
尿道閉塞はとても苦しい状態です。
閉塞が解除できて、お腹も満たされ、温かい部屋で休めたこと。
「苦しみませんでしたよ」
外で生活をしていた子。
人の手を加えるべきか否かは結論の出ない難しい問題だと思います。
しかし、ご縁です。
気付かれずには済まなかった場所にいたわけですから、この子なりのメッセージだったかも知れません。
この保護された方とその後お話をしました。
これまでもいろいろとワンちゃんの病気のことなどでお話をしてきましたが、今回はまた違う場面です。
長いお付き合いですが、さらに気持ちが近づいた、そんな気がしました。
これものらネコさんの力かも知れません。
安らかにおやすみなさい。