日本橋動物病院だより

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高齢犬の全身麻酔 – 犬の歯周病 –

寒い朝がありますね。お休みの日に、少しだけ早起きして隅田川のテラスに面したお店でぼーっとパンなど食べながら、川の流れを眺めていました。少しばかりいつもと違うことをすると色々な考えが浮かんできますので、このような気分転換は大切ですね。前向きな休み時間でした。

最近、高齢犬の歯周病治療が続きました。

歯周病の治療では、はじめに歯石を除去することが多いのですが、そのためには全身麻酔をすることになります。

高齢犬の飼い主さんの中には、この全身麻酔がとても危険だと思われている方があります。

おそらくは、全身麻酔で可愛い家族を失ったというお話を聞かれてのことだと思います。

それはお友達のお話だったり、ご近所さんからだったり、そしてインターネットの情報であったり。
ご家族の方のご心配の原因には、少なからず動物病院というものへの不安もあるはずです。

確かに100%安全というものではありませんが、安全性はかなり高いと考えています。

今回、特に印象的だった子のお話です。
初診でみせていただいたのが、おおよそ1年前です。
そのときから全部の歯に歯石が付着していまして、炎症による赤みや口臭が目立っていました。
初診時の身体検査の後で、歯石の除去についてお勧めをしましたが、「全身麻酔はしない」、「歯磨きはできない」、「歯磨きガムは使いたくない」とのことでした。

そうなりますと、できることは限られています。

もともとは歯のことでご来院されたわけではなく、身体検査でわかった所見としてお話しただけですので、お母さんは歯周病を解決したいというお気持ちではなさそうでした。

そこにはやはり全身麻酔という問題が大きかったのかも知れません。

それから何回かのご来院があり、口の中は重度の歯周病ということで変わりはありませんでしたが、来院のときだけこちらで歯磨きをしたり、お薬の塗ったりしていました。

ある日、このワンコのお母さんから予約のお電話をいただきました。

歯周病治療のための麻酔をかけての処置のご希望です。
正直なところ、少し驚きました。
はじめに診せていただいてからおおよそ1年です。

ワンコは1歳だけ歳をとり、そして歯周病は進行しました。
条件としては、1年前の方がいろいろと良かったわけですが、今回は特別にご相談があった訳ではなく、お電話だけでのご予約でした。

全身麻酔のことで、これまで多くの不安をお持ちのご家族ですと、長めにお時間をいただき、いろいろとお話をしてからご予約に至ることが多いですので、なぜ決心されたのだろうかと気になりました。

当日は、身体検査や麻酔前検査を行い、通常の流れで特別なこともなく全身麻酔を行いました。そして口腔内のレントゲン検査を行い、各所の歯の様子を見えないところまで調べました。おそらくは、お年から考えて最後の歯科処置かも知れません。問題がないと思われる歯でも、歯根が化膿していることもありますから、必要な処置を取りこぼしてしまうと、数か月以内にまた麻酔をかけて処置をしなければなりません。

せっかく覚悟をしてお任せいただいていますから、それだけは避けたいところです。
キレイにするところはしっかりと歯石を除去して磨く、抜歯をしなければならないところはそのことのメリットが優先するところで実施をする。

歯石を除去するときには、超音波スケーラーと呼ばれる機器を使います。

硬く歯についた歯石を力で削り取るのではなく、見えないくらいに細かく振動する超音波で剥がします。その振動でかなりの熱が出ますので、超音波スケーラーは多めの水を出しながら熱が歯に伝わらないようにして使います。
多くの水を使いながらということを一つ取っても、安全に歯石をキレイに取り除くには全身麻酔が欠かせません。

ときに、全身麻酔をせずに歯石を取りますという動物病院があるようですが、現実的ではありません。少なくとも、まともな歯科治療はできません。全身麻酔を使わないと、詳細な歯科のレントゲン検査すらできないのですから。

この子はしっかりと口腔処置が終わり、口臭も全くしなくなり、キレイな歯に戻りました。抜かなければならない歯もありましたが、今後の食事は、これまでのとおりに何の変更もなしにできます。

お母さんは、処置が終わってお迎えに来られると、とっても元気な様子に拍子抜けされたようでした。高齢だし、もっとぐったりしているのかと思いましたよ。
尻尾を振って迎えてくれてた姿にお母さんは笑顔でした。

この子は16歳。それでも元気に帰って行きました。

それでも全身麻酔をかけるときに特に慎重になります。とてもホッとする瞬間です。