日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

一次情報

昨日の雨はすごかったですね。
あれもゲリラ豪雨というのでしょうか。

最近ありました対照的なできごとです。
インターネットに関係することです。

当院の近くにお住まいの飼主さん(プーママさんとします)が遠くに越されていきました。
そのお話は事前に伺っていましたが、その方が来院されました。
長い距離を2匹のワンコを連れて。
簡単に来られる距離ではありませんので、よほどのことかと思いましたが、プーママさんからお話を伺うと歯科診療についてでした。

犬の歯石を取るには全身麻酔が必要だと、プーママさんの現在のお住まいの近くの動物病院で言われたとのことでした。
しかしながら、インターネットを見ると、麻酔をしないでも歯石を取れるという動物病院があるようだと。
どちらがよいのでしょうか。
そういう質問でした。

これは大変に冷静な判断だと思いました。
情報には一次情報、二次情報、三次情報などありますが、まずは直接の話で一次情報を大切にされる方です。
そして、プーママさんは飼主さんとしては「麻酔なし」という何だか都合の良さそうなものに飛びつかず、確かな話は何だろうかという見方がおできになる方です。

犬の歯石取りを麻酔なしで行うことは基本的にはよくありません。
無麻酔でも歯石が少し付いただけで、ワンコがおとなしくしてくれていればできないことはありませんが、口の内側の歯肉ポケットや奥歯などにハンドスケーラーと呼ばれる歯石取りの器具を入れることは危険が伴います。
つまりは見栄えはある程度よくなりますが、本当に必要な処置はできません。

無麻酔で歯肉炎の予防や治療を十分に行うことはできません。
まずはどこに問題があるかと言いますと、全身麻酔で歯科処置をする場合と、無麻酔で行う場合に、まるで同じことができるという誤解があると思います。

全身麻酔では十分な処置ができても、無麻酔でできることにはかなりはやいところに限界があります。
しかし、このことをしっかりと伝えるところは少なく、あたかも麻酔を使わなくても同じことができるかのような錯覚を与えてしまいます。

結局プーママさんのところのワンコ2匹は全身麻酔での歯石取りを含む口腔処置を希望されました。

次に来られたのはシーママです。
当院をかかりつけとされている訳ではありませんが、時々来院されます。
以前に歯石が重度に付いていたために歯肉炎が酷かったことがありました。
そこで、全身麻酔での歯石取りをお勧めしていました。
今回は別の症状での診察でしたが、診察の中で口の中も見てみました。
歯肉炎があるにも係らず、歯石の量が減っています。
お話を伺いますと、インターネットで麻酔をかけずに歯石が取れるという病院に行っているとのことでした。

このような時にはかなり迷います。
シーママには歯石取りには全身麻酔が必要ですとお伝えしてあります。
しかし、麻酔をせずに歯石取りをするという動物病院に行かれ、一応見えるところでは歯石が減っていますが、歯周ポケットまではお手入れできなかったのでしょう、歯肉炎がそのままです。
そのことをお伝えする必要があるかどうかです。

おそらくはご理解の範囲を超えていると思います。
インターネットに載っている無麻酔で歯石取りができるところを探して行かれたとのことでした。
一度も口腔処置のお話をしたことがなければ、しっかりと本当のところをお話しなければならないところですが、すでに何回もお話をした後ですから今回はそうではありません。
シーママが懸命に探されたところですから。
シーくんは毎回無麻酔で怖い、痛い思いをしていると思いますが、それでも我慢強く頑張っているのだと思います。

ただ、このことは、シーママだけが悪い訳ではありません。
全身麻酔に対する過度なまでの恐怖心の原因があると思います。
それは獣医師に責任があるところだと思います。

対照的なのは麻酔をかけて歯科処置をした プーママと無麻酔での処置を続けているシーママということではありません。
一次情報を基本として、安易にインターネット情報だけで選択をしなかったプーママとインターネットの情報だけで選択をされたシーママの違いです。

デジタルの時代だからこそ、むしろアナログな人と人の直接の向き合い方を大切にして、自分の目の確かさを信じてうごきたいと思うできごとでした。