日本橋動物病院だより

日本橋動物病院だより

夜中の貴重な体験

だんだんと寒くなってきましたね。
11月というと晩秋でしょうか、初冬でしょうか。

ところで私事ですが、少し前に大変貴重な体験をしました。
夜中に背中に激痛が走り、寝ていられないどころか、立つことも座ることもできない状態になりました。その痛みは突然に襲ってきたわけではなく、鈍い痛みからだんだんと強くなってきた感じでした。最終的にこの痛みは鋭いと表現するようなものではありませんでしたが、ちょうど左の背中のベルトの上あたりに名刺のサイズくらいの面積に何とも言われないほどの痛みがありました。

以前に健康診断でシュウ酸カルシウムが反応しているとの結果をもらったことを思い出し、これは腎臓の痛みで、原因はシュウ酸カルシウムによるものだろうと推測してみました。

とりあえず、このままでは翌日の仕事に差し障りがあると思い、夜中でしたがどこか病院に行かなければと脂汗をかきながら考えていました。
痛みがはじまったのが夜中の3時30分頃。どうにもならなくなったのがそれから1時間後の4時30分頃。
救急車を呼ぶべきか、イヤ、救急車もすぐには来てくれないほどに忙しいはずだと思い、まずは#7119に電話をしました。
救急車を呼ぶべきかを訪ねる電話番号です。
自らが出した診断名が的確かはそのときには定かではありませんが、一応こう思っていますと伝え、すると3件ほどの病院を紹介されました。
言われたとおりの順番に電話をかけてみると、驚いたことに、全てに断られました。

なるほど、こう言うことなのか。
演技でも何でもなく、本当に息も絶え絶えで電話をかけているにも関わらず、こうやって運命は分かれて行くのかも知れないと思うできごとでした。
ならば自分で探すほかないということで、近くにあるERを調べて電話をかけました。
症状を伝え、来てくださいとのこと。
まずはタクシーを捕まえてERまでやっと到着。
タクシーの中でも後部座席から助手席の背もたれにしがみつき、運転手さんとも最低限の会話しかできなく、やっとの思いで受付までたどり着けました。

受付カンターではハガキほどの紙に名前や住所やらを書くように言われましたが、そのような状況で書けるはずもなく、申し訳ないが書くことができませんと床にうずくまってしまいました。

受付の後ろにある車いすを使っても良いと言われましたが、人は座ることもできない状態というものがあるのですね、とてもそれを使って何かが好転するとは思えず、遠慮しました。

受付には数名の患者がいましたが、察するに、僕のように立つこともできず、声を出すこともできないもちろんじっとしていることもできないほどの人は見あたりませんでした。
日中は混雑しているはずの受付も、早朝5時ではほとんどが空席で、長椅子に横になり、順番を待ちました。

その間ももがき苦しみ、七転八倒とはこのような状態なのでしょう、床をのたうち回りたくなるような痛みと格闘していました。

冷酷にも、ただいまの待ち時間というモニタには約1時間と表示されています。
こみ上げてくる胃液は間違いなく絶望と痛みによるもので、吐出さえしませんでしたが、寸でのところではありました。

ようやく名前が呼ばれ、まるで這うように診察室にたどり着くと、女医先生が大丈夫ですか?との問い。
とりあえず思うことを述べますと、ベッドにうつ伏せになってくださいね、エコーで腎臓を見てみますと。
お腹を抱えるようにしか体勢を保てないなかで、どうにかベッドにうつ伏せますと、頭はこっちなんですよね、と逆方向にうつ伏せるように指示され、こんなことも困難になっている自分が情けなくなるくらいでした。

あった!腎臓に石がありますよ。
それははじめからわかっていたじゃないですか、先生。
それを知りたかったのですか。
とは言いませんでしたけど、心の裡はそのようなものでした。

結局石が排泄されるまで待つしかなく、その間に起こる痛みは痛み止めで耐えるしかない。
まあ、そんなものとは知りながら、痛み止めの処方のためにどれだけの時間を費やしたのか。

しかしそれは仕方がないことだと思います。
誰もがこの痛みを正体をはじめから知っているわけではなく、違うものであれば違う治療法が提案されるはずですし、患者が自由に処方薬を使うとなりますと、おそらくは間違った考えから事故も起こりかねない。
だからお医者のような専門の先生が存在する。

薬を投薬され、ベッドを用意しますから寝ていってくださいと、まだ激しい痛みはありましたが診察が終わり、薬も入った後でしたので、この痛みから解放されるのももう少しだろうとやや期待をしながら病院のベッドで休みました。

病院を出る頃、だいたい朝の8時前くらいでしたが、どうにか思うように歩けるようにはなっていて、岐路につくタクシーでは運転手さんとも何気ない会話もできました。

普段はあの女医先生の方にいるわけですが、自身が逆の立場に置かれてみると、いろいろと興味深い心境になるものでした。
とても貴重な体験は、夜の救急外来の体験だけではなく、痛みについてもまた然りでした。

だれが言ったか、この痛みを、陣痛と並ぶ人が体験する3大激痛のひとつと表現する人もいるようです。
インフルエンザでも高熱でも、あまりパフォーマンスを悪くはしてこなかったのですが、この痛みの前には平然としていることは難しいものでした。

まだ問題が解決したわけではなく、これからもいつ襲ってくるかわからない激痛の心配があります。今は堪え難い痛みでもすぐに解決してくれる薬を持っていますから大丈夫です。おそらくは次に痛みが襲ってきても、前よりはもっと平然と振る舞えそうな気がします。
普段の仕事に直結する、そしてとてもよい体験でした。