日本橋動物病院だより

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年を越して -抗癌治療-

今年も残すところあと3日ですね。

水天宮の近くでは、お正月飾りなどの露店が増えてきました。
賑わっていますね。

12月31日と元日はたった1日の違いですけど、一つの区切りとして、年が変わったという新しい気持ちになります。

病状からみてこの年越しがもしかしたら難しいかも知れないと思えた子が、大変に調子よく新しい年を迎えることができそうで、スタッフ全員がホッとすることがありました。

年の後半から治療が難しいガンが見つかった子がいます。
この子は近くのお友達のお家で産まれた子。
兄弟も近くにいますし、近所の方々からもかわいがられる子です。
食欲がなくなり、元気もなくなり、大好きなお散歩にも出られなくなりました。
飼い主さんは突然の知らせに驚かれ、私どもも普段がとても元気な子だっただけにとても残念な思いをしました。

このガンは手術で取り除くことができないもの。
普通は抗癌治療を行います。

飼い主さんは抗癌治療についてのご説明の後、とても心配をされていました。
抗癌治療でよくなるのか、そして副作用はどうなのか。
確かに抗癌治療で完治することはほとんどありません。
ガンを小さくできたり、できるだけ快適に過ごせる時間を長くできりはできることがありますが。

できることは抗癌治療のみ。
それが現実でした。
どうぶつの抗癌治療にはいろいろな意見があります。
もしかすると、ヒトもそうかも知れません。

私が知る限りでは、ヒトのガンで抗癌治療で治るものはほんのわずかです。
しかも、そのガンにかかり、抗癌治療を行ったからといって、全員が同じよい結果を享受できるとは限りません。
副作用に苦しみ、もしかしたら生命力をもって生きているというよりも、生かされているという消極的な時間の過ごし方をしなければならないかも知れません。

抗癌治療は医師、あるいは獣医師の自己満足ではないかという意見もあります。
ほとんどはよい状態になるようにお手伝いできることはあっても、治すことはできないのだから。

飼い主さんもご心配や迷いをお持ちでしたが、僕は今回はある程度積極的にお勧めいたしました。
まだ若いこの子には体力がありますし、抗癌治療はこのワンちゃんが、あるいはご家族の方が辛い思いをするならばいつでも止めることもできるものです。

飼い主さんがどのような選択をされるのか。
お返事を待つ数日間は、もしかしたら抗癌治療は行わないという判断もあるだろうと考えておりました。

私が見るなかでは、既に食欲がなくなっていますので、抗癌治療も予定どおりのプログラムで全行程を行うことは難しいかも知れないと考えましたが、あともう一度でもこれまでの食欲でおうちのご飯を食べてくれたらという願いがありました。

飼い主さんは抗癌治療をする決断をされました。

初日。
ワンちゃんは すっかりと元気のなくなった様子で、とぼとぼと診察室に入ってきました。
血液検査を行い、点滴で抗癌剤を入れますと、すぐに寝てしまいました。
点滴が終わる頃、2回ほど吐いてしまいました。
この日は1日のうちに何回か吐いてしまい、初日の抗癌治療がこれだと続けることは難しいかも知れないという気持ちになります。

治療は基本的には毎週1回行いますが、次の週は少し元気になってやってきてくれました。
食事も取っていますよ
飼い主さんのお顔も少しばかり安心されたように見えました。

2回目の治療からは吐き気も何事もなく、かなり順調にすすみました。
次第に元気を取り戻したワンちゃんは、食欲もしっかりとあり、そして体重も増えました。

今では2週間に1度だけ抗癌治療のための点滴に通われていますが、お家で何かしらのお薬を飲むこともなく、点滴の日以外は全くガンを思わせない、普通の生活がおくられています。

一時は抗癌治療の全行程を行うのは難しいかも知れないと考えることもありましたが、このまま順調によい状態が維持できそうです。
年内最後の治療が終わり、次の点滴は年が明けてから1月の中旬頃です。

年越しがこのように元気にできるとは期待を大きく超える体力があったのだと思います。

この子を見る限り、抗癌治療は獣医師の自己満足とは言い切れない、そんな気がしています。もちろん、いろいろな効き方がありますし、効果がみんなにあるわけではありません。少なくともこの子にとっても、飼い主さんにとっても、すばらしい時間になっていると思いますから、この選択は大成功だと考えています。

食欲もあって体重も増えています。
もっともっと楽しい生活が続きますように。